近年、社会的な課題として注目されている「ヤングケアラー」。
ヤングケアラーとは、本来は大人が担うと想定される家事や家族の世話、介護、看病などを日常的に行っている子どもや若者のことを指します。
たとえば、「病気や障害のある親や兄弟の介助をしている」「祖父母の介護をしている」といったケースがあります。
家族を思いやる気持ちそのものは尊いものです。
しかし、その負担が大きくなりすぎると、子ども自身の学業、睡眠、友人関係、進学、就職、心身の健康に影響が出ることがあります。
ヤングケアラー問題は単に「家族を手伝っている子ども」の話ではなく、子どもの将来に関わる重要な社会課題です。
ヤングケアラーが抱えやすい問題
ヤングケアラーは外から見えにくい存在です。本人も「自分が家族の世話をするのは当たり前」と考えていることが多く、周囲に相談しないまま負担を抱え込んでしまうことがあります。
具体的には、次のような問題が起こりやすくなります。
①学校に遅刻・欠席しやすくなる
②宿題や勉強の時間が取れない
③部活動や友人との時間を持てない
④進学や就職をあきらめてしまう
特に深刻なのは、本人が「助けて」と言いにくいことです。
「家族を悪く思われたくない」「家庭の事情を知られたくない」「相談すると家族が責められるのではないか」
という不安から問題が表面化しにくいのです。
そのため、学校や地域、医療、介護関係者が早期に気づき、子ども本人だけでなく家庭全体を支える仕組みが必要です。
1. 早期発見の仕組みをつくる
たとえば、「遅刻・欠席が増える」「宿題ができない」「授業中に眠そう」「友人関係が少ない」「進学や就職をあきらめている」などの様子が見えた時には声をかけ、状況の確認をしましょう。
特に学校は発見の入口になります。文部科学省も、学校等でヤングケアラーを把握した場合の対応や、学校の役割について周知しています。
2. 子ども本人ではなく「家庭全体」を支援する
ヤングケアラー支援で大切なのは、子どもに「介護をやめなさい」と言うだけでは解決しない点です。
家族に介護・障害・病気・精神疾患・貧困・ひとり親・外国籍などの課題がある場合、子どもが抜けると生活が回らなくなる家庭もあります。
そのため、解決策は次のような組み合わせになります。
介護保険サービス、障害福祉サービス、訪問介護、家事支援、配食サービス、ショートステイ、保育サービス、通訳支援、生活困窮者支援、就労支援、医療・精神保健福祉の支援を家庭に入れることです。
つまり、子どもを支援するには、親や祖父母、きょうだいも含めた世帯支援が必要です。
3. 学校内に相談しやすい窓口を置く
ヤングケアラーの子どもは、「家のことを話すのは恥ずかしい」「親を悪く思われたくない」「施設に連れて行かれるのでは」と不安を持つことがあります。
そのため、学校では担任だけで抱えず、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、養護教諭が連携する体制が必要です。
相談先は「困ったら言ってね」ではなく、定期面談やアンケートなどで自然に把握できる仕組みが望ましいです。
授業やホームルームで、
「家族の世話をしていることは悪いことではない。でも、学校生活や睡眠、進路に影響しているなら相談してよい」
と伝えることも重要です。
4. 経済的支援と学習支援をセットにする
ヤングケアラーは家事や介護で勉強時間が削られたり、アルバイトで家計を支えたりすることがあります。
その結果、進学・就職の選択肢が狭くなり、貧困が次世代に続くリスクがあります。
必要なのは、学習支援、奨学金情報の提供、受験費用の支援、通学支援、進路相談、就職支援です。
高校生・大学生の場合は、単に「子ども」としてではなく、若者支援・キャリア支援の対象として見る必要があります。
5. 介護・医療側からも発見する
学校だけでなく、介護事業所、病院、ケアマネジャー、訪問看護、地域包括支援センターも重要です。
たとえば、要介護者の家に行ったときに「子どもが食事づくり」「排泄介助」「服薬管理」「通院付き添い」「通訳」「見守り」を担っている場合があります。
その場合、ケアプランを作る際に「この家庭の主な介護者は誰か」「子どもに過度な負担がかかっていないか」を確認する必要があります。
6. 本人の気持ちを尊重する
ヤングケアラー支援で避けるべきなのは、支援者が一方的に「あなたはかわいそう」「すぐ家族から離れなさい」と決めつけることです。
本人にとって家族を大切に思う気持ちは本物です。
支援の目的は家族を否定することではなく、子ども自身の睡眠・学び・友人関係・進路・健康を守ることです。
そのため、本人には次のようなことを伝えるとよいでしょう。
「家族を支えていることはすごいこと。でも、あなた一人で背負わなくていい」
「あなたの学校生活や将来も同じくらい大切なんだよ」
「家族を助ける方法を、大人も一緒に考えるよ」
7. 地域の居場所・相談先を増やす
家庭と学校だけでは子どもが息抜きできません。
地域に安心して行ける場所が必要です。
具体的には「子ども食堂」「学習支援教室」「放課後の居場所」「オンライン相談」「ピアサポート」「元ヤングケアラーとの交流会」などです。
こども家庭庁の相談窓口検索では「対面相談」「訪問相談」「電話相談」「SNS相談」「家事・育児サポート」「学習サポート」などがあります。
ヤングケアラー問題は「家庭のお金」とも深く関係する
ヤングケアラーが生まれる背景には、介護、病気、障害、ひとり親、失業、貧困、外国籍家庭の孤立など、さまざまな事情があります。
そして、それらの多くは「家計の問題」とも密接に関係しています。
たとえば、
「親が病気で働けなくなり収入が減った」
「介護費用や医療費の負担が重い」
「障害年金や手当を受け取れる可能性があるのに申請していない」
「利用できる福祉サービスを知らない」
「家計が苦しく子どもがアルバイトをせざるを得ない」
といったケースです。
このような家庭では、子どもの努力だけで問題を解決することはできません。
必要なのは家族全体の生活を見直し、公的制度や地域の支援につなげることです。
そこで、ファイナンシャルプランナーが関われる場面があります。
FPができる支援① 家計の見える化
FPがまずできることは「家計の状況を整理」することです。
毎月の収入はいくらあるのか、支出はどこに多くかかっているのか、医療費や介護費はいくらか、借入や滞納はないか、保険料の負担は重すぎないか、子どもの教育費をどう準備するか。
こうした情報を整理することで家庭が抱えている問題の全体像が見えてきます。
ヤングケアラー家庭では、家族自身も生活に追われており、家計を冷静に把握できていないことがあります。
FPが第三者として関わることで「何が原因で苦しくなっているのか」「どこから改善できるのか」を一緒に考えることができます。
FPができる支援② 公的制度の確認
FPは、年金、保険、税金、社会保障、教育資金など幅広い制度に関する知識を持っています。
ヤングケアラー家庭に対しては、利用できる公的制度がないかを確認することが重要です。
たとえば、親が病気やけがで働けない場合には、傷病手当金や障害年金の対象になる可能性があります。
家族が亡くなっている場合には遺族年金を受け取れる場合があります。
医療費が高額になっている場合には「高額療養費制度」が使えることもあります。
ひとり親家庭であれば「児童扶養手当」、低所得世帯であれば「生活困窮者自立支援制度」や「就学援助」、進学を考える子どもには「奨学金」や「授業料減免制度」なども確認すべきです。
また、介護が必要な家族がいる場合には「介護保険サービス」や「障害福祉サービス」を十分に使えているかを確認する必要があります。
サービスが不足しているために、子どもが家事や介護を肩代わりしているケースもあるからです。
FPができる支援③ 進学・就職をあきらめないための資金計画
ヤングケアラーにとって大きな問題の一つが、進学や就職への影響です。
「家にお金がないから進学できない」
「自分が家族の世話をしないといけないから、地元を離れられない」
「アルバイトを続けないと生活が成り立たない」
このように考え、将来の選択肢を狭めてしまう子どもや若者もいます。
進学費用、生活費、奨学金、給付型支援、教育ローン、授業料減免などを整理し、進学の可能性を具体的に検討することができます。
単に「お金がないから無理」と判断するのではなく、どの制度を使えば進学できるのか?
家族の生活をどう支えるのかを一緒に考えることができます。
これは、子どもの将来を守るうえで非常に重要な支援です。
FPができる支援④ 保険・年金・介護費用の見直し
ヤングケアラー家庭では、親や祖父母の病気、障害、介護が背景にあることが少なくありません。
そのため、FPは家族の保険や年金、介護費用について確認することができます。
生命保険や医療保険の給付金を請求できる可能性はないか?
保険料が家計を圧迫していないか?
障害年金の申請可能性はないか?
介護保険サービスを適切に利用できているか?
住宅ローンや家賃の負担は重すぎないか?
といった点です。
制度や契約内容を見直すことで家計に余裕が生まれ、結果として子どもの負担軽減につながる場合があります。
FPができる支援⑤ 専門機関につなぐ
FPは福祉や医療、法律のすべてを解決する専門職ではありません。
だからこそ、適切な機関につなぐことが大切です。
ヤングケアラー支援では、学校、スクールソーシャルワーカー、自治体の福祉窓口、こども家庭センター、地域包括支援センター、障害福祉窓口、社会福祉協議会、生活困窮者自立相談支援機関、医療ソーシャルワーカー、弁護士、司法書士などとの連携が必要になります。
FPは、家計相談を通じて家庭の困りごとを把握し「これは福祉につなげた方がよい」「これは法律相談が必要かもしれない」「これは学校と連携した方がよい」と判断する入口になれます。
まとめ
ヤングケアラーとは、本来は大人が担うような家事や介護、家族の世話を日常的に行っている子どもや若者のことです。
その背景には、介護、病気、障害、貧困、ひとり親、孤立など、さまざまな家庭の課題があります。
ヤングケアラー問題の解決には、子ども本人の頑張りに頼るのではなく、家庭全体を社会で支える仕組みが必要です。
FPはその中で、「お金」と「制度」の面から子どもの将来を守る役割を果たすことができます。
家族を支える子どもたちが、自分自身の人生をあきらめなくてよい社会をつくるためにできることがあります。
