「NISAはやった方がいい」
そんな言葉をニュースやSNS、周囲の人から一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
一方で、実際のFP相談の現場ではNISAを活用して将来への安心感を手に入れた人がいる一方で、途中でやめてしまい「やらなければよかった」と感じている人も少なくありません。
同じNISAという制度を使っているのに、なぜ結果に大きな差が生まれるのでしょうか。
それは制度の良し悪しではなく、使い方と向き合い方の違いにあります。
NISAは「始めれば必ず成功する魔法の制度」ではありません。
目的が曖昧なまま始めたり、短期で結果を求めたり、他人の情報に振り回されてしまうと、
かえって不安や後悔を生むこともあります。
一方で、自分の性格や生活に合った形で無理なく活用できた人は相場の上下に振り回されることなく、
長期的な安心を手にしています。
本コラムではFP相談の現場で実際によく見られる「NISAの成功事例」と「失敗事例」をもとに、
どこで明暗が分かれたのかを分かりやすく解説します。
これからNISAを始めようとしている人も、すでに始めて不安を感じている人も
自分に合った正しい距離感を見つけるヒントとして、ぜひ参考にしてください。
成功事例① 新社会人・月1万円からコツコツ型
相談者の詳細プロフィール
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年齢:23歳
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職業:メーカー勤務(新卒1年目)
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手取り月収:約18万円
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実家暮らし(家賃負担なし)
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貯金:学生時代のアルバイトで約50万円
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投資経験:なし
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投資に対する印象:「正直、怖い」「損したら嫌だ」
相談時の悩み
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貯金だけで将来が大丈夫か不安
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でも大きく損するのはもっと不安
-
何から始めていいか分からない
運用方法(具体的な商品・金額)
制度
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つみたてNISA
投資信託(1本に集中)
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全世界株式インデックス型の投資信託
(日本・米国・先進国・新興国に分散投資されるタイプ)
毎月の投資額
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月1万円(ボーナス設定なし)
運用期間
-
3年間(36か月)
投資額と利益の実績(3年間)
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投資元本
1万円 × 36か月 = 36万円 -
評価額(3年後)
約 44万円 -
評価益
約 +8万円(+約22%)
※途中、評価額がマイナスになった期間も複数回あり
※一度も売却・増額・減額はしていない
相談者本人の反応・変化
1年目
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「正直、上がっても下がってもよく分からない」
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ほとんど相場を見ていない
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投資というより「自動で貯金している感覚」
2年目
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一時的に評価額がマイナスになるが、動じず
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「減っても毎月同じ金額で買ってるだけですよね?」と冷静
3年目
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評価益が出て初めて「増える実感」
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「投資って、意外と普通ですね」
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不安よりも安心感が勝る状態に変化
成功のポイント(FP視点での分析)
① 金額設定が身の丈に合っていた
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月1万円=生活に影響なし
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「減っても生活は困らない」金額だった
② 商品をシンプルにした
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投資信託は1本のみ
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比較・乗り換え・情報収集を最小限に
③ 投資を「貯金の延長」として捉えた
-
増やす期待を持ちすぎなかった
-
「慣れること」が目的だった
FPの視点(結論)
この方の最大の成功は、
利益額(+8万円)ではありません。
-
投資=怖いもの、という意識が消えた
-
相場に振り回されない耐性がついた
-
今後、収入が増えたときに増額できる土台ができた
という点です。
「増やす」より「慣れる」
金額より「続けられる仕組み」
これを23歳で体験できたこと自体が、
将来の資産形成において非常に大きな価値があります。
成功事例② 30代共働き・月3万円×長期で「安心」を作ったケース
相談者の詳細プロフィール
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年齢:夫35歳・妻33歳
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家族構成:夫婦+子ども1人(2歳)
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職業:
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夫:メーカー勤務(勤続12年)
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妻:事務職(時短勤務)
-
-
世帯手取り月収:約48万円
-
住居:賃貸(家賃11万円)
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貯金:約500万円
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投資経験:
-
夫:少額の投資信託経験あり
-
妻:投資未経験
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相談のきっかけ
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子どもが生まれ「将来のお金」が現実味を帯びた
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教育費・老後資金の両立に不安
-
「貯金だけで本当に足りるのか?」という疑問
FP相談時に整理した考え方
FPとして最初に行ったのは、
「何のためのお金か」を徹底的に分けること。
| お金の目的 | 管理方法 |
|---|---|
| 生活費 | 普通預金 |
| 生活防衛資金(約1年分) | 定期預金 |
| 教育費(10年以内) | 保険中心 |
| 老後資金(20年以上先) | NISAで積立 |
👉 老後資金=長期投資専用
👉 途中で使わない前提のお金だけを投資に回す設計
運用方法(具体的な商品・金額)
制度
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つみたてNISA
投資信託(夫婦それぞれ1本ずつ)
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夫:全世界株式インデックス型投資信託
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妻:先進国株式インデックス型投資信託
※あえて商品を分けることで商品の違いを知ってもらう
毎月の投資額
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夫:月2万円
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妻:月1万円
→ 世帯合計:月3万円
ボーナス設定
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なし(固定額のみ)
運用期間と実績
運用期間
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約7年間(84か月)
投資元本
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3万円 × 84か月 = 252万円
評価額(7年後)
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約 355万円
評価益
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約 +103万円
※途中、評価額がマイナスになった年もあり
※リーマン級ではないが、比較的大きな下落局面を2回経験
※一度も売却・停止・減額なし
暴落時の行動(ここが最大の成功要因)
下落局面での相談内容
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「ニュースでは不安になるが、生活には影響なし」
-
「老後のお金なので、今は気にしない」
実際の行動
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積立は自動継続
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評価額は年1回確認のみ
-
夫婦で「売らない」と事前に合意済み
👉 判断を「事前」に済ませていたことが継続につながった。
相談者の変化・心理面の成長
開始当初
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妻:「正直、よく分からないけどFPさんを信じてる」
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夫:「自分が判断しなくていいのが楽」
5年目以降
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評価益が100万円近くに
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「貯金だけでは作れなかった安心感がある」
-
投資=不安 → 投資=備え という認識に変化
成功の本質(FP視点での分析)
① 投資目的がブレなかった
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老後資金専用
-
教育費・生活費と完全分離
② 金額が「生活を邪魔しない水準」
-
月3万円でも家計に余裕あり
-
下落時も「生活は変わらない」
③ 夫婦で意思統一できていた
-
片方が不安になっても止まらない
-
家計管理として非常に重要なポイント
FPの結論
このケースの成功は、
利回りが良かったから
ではありません。
-
続けられる金額
-
途中で使わない目的
-
感情が揺れにくい設計
この3点を最初に整えたことがすべてです。
月3万円という金額でも、
「7年 × 継続」すれば
100万円以上の差が生まれました。
成功事例③ 投資が怖かった慎重派が「距離感」を保って続けられたケース
相談者の詳細プロフィール
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年齢:28歳
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職業:医療系事務職
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手取り月収:約24万円
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住居:賃貸(家賃7万円)
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貯金:約180万円
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家族構成:独身
-
投資経験:なし
相談のきっかけ
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友人がNISAを始めた
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SNSで投資情報を見るようになり不安が増した
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「やった方がいいのは分かるけど、損するのが怖い」
相談時の本音
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「投資=減るものというイメージが強い」
-
「数字が上下するのを見るのがストレス」
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「できれば考えたくない」
FP相談時に重視した設計方針
最初に決めたルールは3つ。
①生活に一切影響しない金額にする
②投資を「見なくていい仕組み」にする
③途中で売買の判断をしなくていい設計にする
👉 「増やす」より「嫌にならずに続けられるか」を重要視。
運用方法(具体的な商品・金額)
制度
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つみたてNISA
投資信託(1本のみ)
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全世界株式インデックス型投資信託
※理由
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地域分散が効いている
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手数料が低い
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「これ1本でいい」と割り切れる
毎月の投資額
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月2万円
(内訳)
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「減っても気にならない上限」を確認
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家計上、完全に余剰資金
運用期間
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約5年間(60か月)
投資額と実績(5年間)
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投資元本
2万円 × 60か月 = 120万円 -
評価額(5年後)
約 165万円 -
評価益
約 +45万円
※途中、評価額が−10万円前後になった時期あり
※一度も売却・停止・減額なし
実際の行動と心理の変化
開始〜1年目
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口座はほぼ見ていない
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「増えても減っても、よく分からない」
2〜3年目
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下落局面でも特に行動せず
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「前より減ってるけど、まあいいか」
4〜5年目
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評価益が目に見えて増え始める
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「気づいたら増えていた」
-
投資に対する恐怖感がほぼ消失
成功の決定要因(FP視点)
① 投資との距離感が絶妙だった
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毎日見ない
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判断しない
-
気にしない
👉 慎重派にとって最大の成功要因。
② 商品を1本に絞った
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比較しない
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迷わない
-
他人の意見を気にしない
👉 情報過多時代において非常に重要。
③ 「増えなくてもOK」という前提
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期待値を下げて始めた
-
結果として、継続できた
👉 期待が低い人ほど、途中でやめない。
相談者本人の言葉(印象的)
「正直、最初は投資してる感覚がなかったです」
「でも、だからこそ続いたんだと思います」
「今は怖いものじゃなくて、勝手に育ってくれるものという感じです」
FPの結論
この成功事例の本質は、
利回りの高さ
ではありません。
-
投資を「生活の外」に置いたこと
-
感情が動かない設計にしたこと
-
判断を先延ばしにしたこと
これらが揃ったことで、
慎重派でも長期投資を成功体験に変えられた好例です。
失敗事例① 生活費まで投資に回してしまったケース
相談者の詳細プロフィール
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年齢:27歳
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職業:IT系企業勤務(社会人5年目)
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手取り月収:約22万円
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一人暮らし(家賃7.5万円)
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貯金:約20万円
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投資経験:ほぼなし
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投資のきっかけ:「NISAはやった方がいい」とSNSで見た
周囲が始めていて焦った
相談時の心理状態
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「早く始めないと損をする気がした」
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「どうせ貯金しても増えない」
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「多少無理しても投資した方が将来楽になるはず」
→ 「焦り」と「貯金軽視」が同時に起きている危険な状態。
運用方法(具体的な商品・金額)
制度
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つみたてNISA
投資信託(2本に分散)
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米国株式インデックス型投資信託
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全世界株式インデックス型投資信託
毎月の投資額
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月5万円
(内訳)
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手取り22万円 − 家賃・生活費
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→ 毎月ほぼ余裕なしの状態で積立
運用期間
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約1年半(18か月)
投資額と結果(18か月)
-
投資元本
5万円 × 18か月 = 90万円 -
評価額(途中時点)
約 78万円 -
評価損
約 −12万円
※市場全体が下落した時期と重なった
※積立自体は理論上は問題なし
何が起きたか(現実)
生活面の変化
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急な出費(家電故障・交際費)に対応できず
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クレジットカード利用が増加
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「今月きつい」という感覚が慢性化
精神面の変化
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評価額を見るたびに不安
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「このまま続けて大丈夫なのか?」
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下落=失敗だと感じ始める
最終的な行動
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生活費確保のため、評価損のまま売却
-
NISAを解約
-
「やっぱり投資は怖い」という印象だけが残った
失敗の本質(FP視点での分析)
① 投資額が身の丈に合っていなかった
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投資額が「余裕資金」ではなく
「生活を圧迫する資金」だった
② 生活防衛資金が不足していた
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貯金20万円 → 明らかに少ない
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何かあった瞬間に投資を崩すしかない状態
③ 下落=失敗だと誤解していた
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積立投資では「下落は想定内」
-
しかし心に余裕がなく、耐えられなかった
FPの教訓(成功事例との決定的な違い)
成功事例①との最大の違いは、
商品や制度ではありません。
| 項目 | 成功事例① | 失敗事例① |
|---|---|---|
| 投資額 | 月1万円 | 月5万円 |
| 生活への影響 | なし | あり |
| 貯金 | 十分あり | 不足 |
| 心理状態 | 余裕 | 焦り |
| 結果 | 継続 | 途中解約 |
👉 「続けられるかどうか」を無視した時点で失敗が決まっていたと言えます。
FPとして伝えたい結論
NISAの失敗原因として最も多いのは、
「投資額を多くしすぎたこと」
ではなく、
「投資してはいけないお金まで投資したこと」
です。
積立投資は正しく使えば素晴らしいツールになりますが、生活の安心を削ると凶器になる
という側面を持っています。
失敗事例② 短期で結果を求めて売却してしまったケース
相談者の詳細プロフィール
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年齢:32歳
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職業:営業職(社会人10年目)
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手取り月収:約30万円
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住居:賃貸(家賃9万円)
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貯金:約250万円
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家族構成:独身
-
投資経験:株式投資を少し(過去に売買経験あり)
長期投資の経験はなし
相談のきっかけ
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NISA制度改正のニュース
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「今始めないと乗り遅れる」という焦り
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営業成績が良く「今は余裕がある」と判断
相談時の思考
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「どうせやるなら、ある程度の金額で」
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「1〜2年で成果が出ると思っていた」
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「増えなければ意味がない」
運用方法(具体的な商品・金額)
制度
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つみたてNISA
投資信託(1本集中)
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米国株式インデックス型投資信託
毎月の投資額
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月4万円
※生活に大きな支障はないが、「余裕があるから多めにやる」という判断
運用期間
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約1年(12か月)
投資額と結果(1年間)
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投資元本
4万円 × 12か月 = 48万円 -
評価額(売却時)
約 43万円 -
確定損失
約 −5万円
※運用開始直後に相場が下落
何が起きたか(時系列)
開始〜3か月
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評価額が横ばい
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「まあ、様子見」
6か月後
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評価損が+1万円前後
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「思ったより増えない」
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SNS・YouTubeで不安を煽る情報を見始める
10か月後
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評価損が−5万円に
-
「このまま下がり続けるかも」
-
「早めに損切りした方が賢明では?」
12か月後
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自分なりに「冷静な判断」として売却
-
NISAを停止
その後に起きた「本当の失敗」
売却から約1年後。
-
同じ投資信託の基準価額は回復
-
もし継続していれば
→ 評価額は約55万円前後
本人の言葉
「あのとき売らなければ…とは思うけど、あの状況では無理でした」
失敗の本質(FP視点での分析)
① NISAで短期の利益を求めた
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1年で結果を求めた
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「増えない=失敗」と判断
👉 時間軸が短いと難しい
② 積立投資の「下落の意味」を理解していなかった
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下落=買い場
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しかし本人の認識は
下落=危険信号
③ 情報を見すぎた
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SNS
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投資系YouTube
-
短期目線の意見に影響される
👉 判断基準がブレた
FPとして伝えたい結論
短期で結果を求める人ほど、
つみたてNISA・積立投資には向いていません。
逆に言えば、
「すぐに増えなくてもいい」
「10年後の自分のため」
と考えられる人にとって、NISAは非常に強力な制度です。
失敗事例③ SNS・他人のおすすめで選んだ結果うまくいかなかったケース
相談者の詳細プロフィール
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年齢:29歳
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職業:サービス業(社会人7年目)
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手取り月収:約26万円
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住居:賃貸(家賃8万円)
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貯金:約120万円
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家族構成:独身
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投資経験:なし
相談のきっかけ
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Instagram・YouTubeで投資系インフルエンサーを視聴
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「この投資信託で誰でも増える」という発信を信じた
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同僚からも「それ、人気だよ」と後押しされた
当時の心理状態
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「みんなやっているなら大丈夫そう」
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「自分で考えるより、詳しい人の真似をした方が安全」
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「選び方を間違えなければ失敗しないはず」
→ 「自分で判断していない投資」は、ギャンブルに近い状態。
運用方法(具体的な商品・金額)
制度
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つみたてNISA
投資信託(SNSおすすめ商品を複数購入)
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テーマ型投資信託
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テクノロジー特化型投資信託
※選定理由は
「フォロワーが多い人が勧めていたから」
「コメント欄の評判が良かったから」
毎月の投資額
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月3万円
運用期間
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約2年(24か月)
投資額と結果(2年間)
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投資元本
3万円 × 24か月 = 72万円 -
評価額(相談時)
約 60万円 -
評価損
約 −12万円
※相場全体はそこまで悪くなかった
※商品ごとの値動きが激しく、回復に時間がかかった
何が起きたか(リアルな経過)
開始当初(〜半年)
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評価額が大きく上昇
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「やっぱりSNSの言う通りだった」と安心
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投資への警戒心が完全に消える
1年後
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テーマ型ファンドが下落
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値動きが激しくなり、毎日基準価額を確認
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SNSで「別の商品」を勧める投稿が増え始める
2年後
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「最初に勧めてた話と違う…」
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ファンドの内容を理解しておらず、状況を理解できない
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不安が募り、FP相談へ
最大の問題点(FP視点)
① なぜその商品を選んだか説明できない
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「人気だから」
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「おすすめされていたから」
👉 自分の投資目的と結びついていなかった
② 値動きが激しすぎて感情が揺れる
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テーマ型が多い
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積立投資向きではない構成
👉 初心者には精神的負担が大きすぎた
③ 情報源がSNSだった
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SNSは常に最新の話題に移る
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フォローしている人が
「途中で責任を取ってくれる」ことはない
👉 判断を他人に委ねた時点で長期投資は難しい
FP相談で行った対応
① 一度すべて整理
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商品ごとの役割を説明
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「長期向き/短期向き」を切り分け
② 投資目的を再設定
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老後資金(20年以上)
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途中で使わないお金のみ対象
③ 商品数を1本に減らす
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シンプルなインデックス型へ集約
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評価額の確認は毎月1回に制限
FPの教訓(この失敗の本質)
この失敗の本質は、
商品が悪かったこと
ではありません。
「自分が理解して選んでいなかったこと」
です。
SNSや他人のおすすめは
「きっかけ」にはなっても「判断基準」にはならない。
FPとして伝えたい結論
NISA・積立投資で最も危険なのは、
「誰かの正解を、自分の正解だと思い込むこと」
です。
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商品選びより
-
利回りより
-
フォロワー数より
「自分が理解できて、続けられるか」
それが、長期投資で唯一重要な基準です。
