株式や投資信託などで資産運用を続けていると、「もっと投資対象を広げたい」「未上場企業やプロ向けの商品にも投資してみたい」と考える人もいるでしょう。
そこで知っておきたいのが、金融商品取引法上の「特定投資家」という制度です。
特定投資家になると、一般投資家では購入できない金融商品や市場へアクセスできます。
一方で、一般投資家を守るために設けられている規制の一部が適用されなくなります。
今回は、「特定投資家とは何か」「特定投資家の特徴やメリット」「個人が特定投資家になるための条件」について、ファイナンシャルプランナーの視点からわかりやすく解説します。
特定投資家とは?「プロ投資家」として扱われる制度
特定投資家とは金融商品取引法において、金融取引について一定以上の知識・経験・財産を持ち、自ら適切にリスク管理できると考えられる投資家です。
いわゆる「プロ投資家」として扱われます。
特定投資家制度は、2007年の金融商品取引法制定に伴って導入されました。投資家保護を確保しながら、一方で専門的な投資家によるリスクマネーの供給を円滑にすることが制度の背景にあります。(金融庁)
一般的な個人投資家の場合、証券会社などには商品のリスクを説明したり、投資家の知識や資産状況に適した商品を勧誘したりする義務があります。
しかし特定投資家は、「自分で投資判断ができる投資家」と考えられるため、こうした投資家保護の一部が簡素化されます。
その代わり、一般投資家には提供されていない投資機会へアクセスできる可能性が生まれます。
つまり特定投資家制度は、
「投資家保護を一部減らす代わりに、投資の自由度を高める制度」
と考えるとわかりやすいでしょう。
特定投資家の特徴① 一般投資家とは異なる「プロ扱い」
特定投資家の最大の特徴は、金融商品取引業者との取引において「プロ」として扱われることです。
金融庁によると、特定投資家との金融商品取引では広告規制、契約締結前・契約締結時の情報提供、クーリングオフ、適合性原則など、一般投資家を保護するための一定の規制が適用されません。(金融庁)
一般投資家であれば、
「この商品はあなたの資産状況に適しているでしょうか」
「元本割れのリスクがあります」
「契約内容はこの書面で確認してください」
といった形で、金融機関側にさまざまな説明や確認が求められます。
特定投資家の場合は、自ら商品内容やリスクを分析して投資判断できることが前提になります。
したがって、単に「資産が多い人」というだけではなく、投資について相応の判断能力を持っていることが重要です。
特定投資家の特徴② 特定投資家限定の商品へ投資できる
特定投資家になる大きな意味のひとつが、特定投資家向けに提供される金融商品へ投資できることです。
金融庁も、特定投資家は「特定投資家向けの商品への投資が可能」と説明しています。(金融庁)
代表的なものとして、
- TOKYO PRO Marketの上場株式
- TOKYO PRO-BOND Marketの債券
- J-Shipsを利用した特定投資家向け未上場株式
- 証券会社などが特定投資家向けに取り扱う金融商品
などがあります。(金融庁)
なかでも注目したいのが、未上場企業への投資です。
一般の個人投資家の場合、上場株式や投資信託が資産運用の中心になります。
しかし特定投資家になることで、スタートアップや未上場企業など、これまで機関投資家やベンチャーキャピタルが中心だった投資分野へ参加できます。
これは特定投資家の大きな特徴といえるでしょう。
特定投資家になるメリット
それでは、特定投資家になることでどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
メリット① 投資対象の選択肢が広がる
最も大きなメリットは、投資できる商品の選択肢が広がることです。
一般投資家が購入できる金融商品だけではなく、特定投資家限定の商品や市場へアクセスできます。
一般的な資産運用では、
国内株式
外国株式
投資信託
ETF
REIT
債券
などが中心になります。
特定投資家になることで、そこに
未上場株式
スタートアップ投資
プロ向け上場市場
特定投資家向け債券
などを加えられます。
資産規模が大きくなればなるほど、「上場株式と債券だけではなく、資産クラスをさらに分散したい」というニーズが出てきます。
特定投資家制度は、そのような投資家にとって選択肢を広げる仕組みのひとつです。
メリット② 未上場企業・スタートアップへ投資する機会が広がる
近年、特定投資家制度で特に注目されているのがスタートアップへの資金供給です。
金融庁は2025年3月、投資判断能力やリスク許容度の高い個人によるスタートアップ投資への参加を促進する観点から、特定投資家に求められる「特定の知識経験」の考え方を明確化しました。(金融庁)
未上場企業投資には、
「上場前から成長企業へ投資できる」
という魅力があります。
例えば、将来的にIPOを実現して企業価値が大きく成長すれば、上場後の株式投資では得にくいリターンにつながる可能性があります。
もちろん、IPOできずに投資資金を回収できないケースもあります。
したがって未上場株式投資は、上場株式以上に企業のビジネスモデル、財務、資本政策、バリュエーション、EXIT戦略などを分析する能力が必要です。
メリット③ 資産ポートフォリオを多様化できる
資産形成初期であれば、低コストのインデックスファンドなどを中心に運用する方法でも十分でしょう。
しかし金融資産が数千万円、1億円と増えてくると、上場株式だけで資産を運用することにリスクを感じる投資家も増えてきます。
そこで、
不動産
PE・VC
未上場株式
オルタナティブ投資
などへ資産を分散する考え方が出てきます。
特定投資家になることで投資可能な商品が増えれば、より幅広いポートフォリオを構築できます。
ただし、「商品数を増やすこと」と「適切に分散すること」は同じではありません。
値動きの相関、流動性、投資期間、信用リスクなどまで考慮する必要があります。
メリット④ 「上場する前」の企業価値上昇を狙える
上場株式への投資では、企業がすでに一定規模まで成長した段階から投資することになります。
一方、未上場企業へ投資できれば、
企業価値10億円(シード)
↓
企業価値30億円(アーリー)
↓
企業価値100億円(レイタ-)
↓
IPO
といった企業成長の早い段階から投資できる可能性があります。
ここに、未上場株式投資の魅力があります。
ただし、企業価値が10億円から100億円になる会社がある一方、事業が成長せず企業価値が大きく下落する会社もあります。
「上場前だから儲かる」のではありません。
むしろ重要なのは、上場していないからこそ、投資家自身が企業価値を見極める力を持つことです。
個人が特定投資家になるための条件
「特定投資家は資産3億円以上の人だけ」
と思われることがありますが、現在の制度はもう少し幅広くなっています。
個人の場合、一定の条件を満たしたうえで金融商品取引業者に申し出を行い、承諾を受けることで特定投資家へ移行できる可能性があります。最終的には金融商品取引業者が、知識・経験・財産の状況・投資目的などを踏まえて判断します。(金融庁)
主な基準には、たとえば次のようなものがあります。
①純資産3億円以上+投資性金融資産3億円以上
純資産が3億円以上と見込まれ、さらに株式・債券などの投資性金融資産も3億円以上と見込まれるケースです。(金融庁)
②純資産・金融資産・年収が一定水準以上
一定の場合には、
- 純資産5億円以上
- 投資性金融資産5億円以上
- 前年収入1億円以上
などの基準も設けられています。(金融庁)
③一定の知識・経験+年収1,000万円以上
ここは近年、特に注目したいポイントです。
一定の「特定の知識経験」を持つ人については、
- 純資産1億円以上
- 投資性金融資産1億円以上
- 前年収入1,000万円以上
のいずれかに該当することで、特定投資家への移行対象になり得ます。なお、所定の取引経験などの条件もあります。(金融庁)
「特定の知識経験」には、金融業務経験者のほか、一定の資格・実務経験を持つ人などが含まれます。
特定投資家に興味がある方は是非ご相談ください。
特定投資家になるデメリット・注意点
特定投資家にはメリットがありますが、ここを理解せずに移行するのは危険です。
注意点① 投資家保護が一部外れる
特定投資家になる最大の注意点です。
金融商品取引業者には、一般投資家との取引において「適合性の原則」などのルールがあります。
ところが特定投資家との取引では、一定の行為規制が適用除外となります。(金融庁)
つまり、「金融機関が守ってくれる」という発想ではなく、
「自分で判断し、自分でリスクを管理する」ことが原則になります。
注意点② 未上場株式はすぐに換金できない
特定投資家向けの商品として注目される未上場株式ですが、最大のリスクのひとつが流動性です。
上場株式なら市場が開いていれば売却できます。
しかし未上場株式では、買い手が見つからなければ売却できません。
「企業価値は上がっているように見えるのに現金化できない」という状況も考えられます。
そのため、生活資金や数年以内に使う予定の資金を投じることは避けるべきでしょう。
注意点③ 情報量が上場企業より少ない
上場企業であれば、
決算短信
有価証券報告書
適時開示
IR資料
など、多くの情報を確認できます。
一方、未上場企業では情報が限定されています。
したがって、
売上高
利益
キャッシュフロー
資金調達状況
株主構成
優先株の条件
希薄化
IPO可能性
などについて、自分で詳細に分析する必要があります。
特定投資家に向いている人とは?
特定投資家への移行を検討する価値があるのは、たとえば次のような人です。
- 十分な金融資産を保有している
- 株式・債券などの投資経験が長い
- 財務諸表を自分で分析できる
- 企業価値評価ができる
- 未上場企業投資に興味がある
- 投資資金を長期間拘束されても問題がない
- 上場株式以外へポートフォリオを広げたい
- 投資商品のリスクを自分で判断できる
逆に、
「人から勧められた商品を購入することが多い」
「元本割れすると生活資金に困る」
「企業分析が苦手」
という人であれば、条件を満たしていたとしても無理をしない方が賢明です。
特定投資家になること自体を目的にしない
資産運用では、「どの商品を買えるか」よりも「なぜその商品へ投資するのか」の方が重要です。
例えば金融資産1億円の人でも、
7,000万円:株式・投資信託
2,000万円:債券
1,000万円:現預金
というポートフォリオで十分なケースもあります。
一方、
株式60%
債券15%
不動産10%
未上場株式10%
現預金5%
など、オルタナティブ投資まで含めて分散したい人であれば、特定投資家制度を利用する価値が出てくるかもしれません。
重要なのは、
「特定投資家になること」ではなく、「自分の資産運用に必要だから特定投資家になること」です。
【まとめ】特定投資家は投資の自由度が高まる一方、自己責任も大きくなる
特定投資家とは、金融商品取引法上、一定の知識・経験・財産を持ち、自ら投資リスクを判断できると考えられる「プロ投資家」です。
特定投資家になることで、一般投資家ではアクセスできない商品やTOKYO PRO Market、未上場株式などへの投資機会が広がる可能性があります。(日本取引所グループ)
一方で、適合性原則や契約前の情報提供など、一般投資家を保護するための一定の規制が適用されなくなります。(金融庁)
そのため、
「プロ向け商品を買える=メリット」
だけを見るのではなく、
「プロとして自分自身で商品を見極めなければならない」
という点まで理解することが大切です。
今後、日本でもスタートアップへのリスクマネー供給が拡大していけば、富裕層や専門知識を持つ個人投資家にとって、特定投資家という選択肢はさらに重要になります。
ある程度の金融資産を築き、上場株式や投資信託だけではなく、未上場株式やオルタナティブ投資まで資産運用の幅を広げたい人にとっては、一度確認しておきたい制度といえるでしょう。

