企業型DCを導入するメリットとデメリット【チェックリスト付】

企業型DCを導入するメリットとデメリット【チェックリスト付】

著者紹介

代表取締役 武田 拓也

ファイナンシャルプランナー(AFP)/社会福祉士/高校教諭1種「福祉」
代表取締役 武田 拓也

元「高校教員」、現役「専門学校講師」
資産運用歴18年の実力派ファイナンシャルプランナー。
失敗談や成功例を実体験に基づいてお伝えしています。
社会福祉士としてNPO法人の理事や大学校友会の理事長など地域福祉にも取り組み中。
高校や大学、事業団体などで年100回以上の講演を実施。
趣味:人の話を聞くこと、資産運用(株式投資、不動産投資、投資信託、その他)

〜企業と従業員、双方にとって本当に得なのか?FPの視点で解説〜

近年、福利厚生の一環として「企業型DC(企業型確定拠出年金)」を導入する企業が増えています。
人材確保・定着、税制優遇、老後資金対策など、さまざまな理由で注目されていますが、一方で「デメリット」や「注意点」も理解せずに導入すると、企業・従業員双方に不満が残る制度になりかねません。

本コラムでは、企業型DCの仕組みを踏まえたうえで、メリット・デメリットを分かりやすく整理し、「どんな企業・従業員に向いている制度なのか」をFPの視点で解説します。


目次

企業型DC(企業型確定拠出年金)とは?

企業型DCとは、企業が掛金を拠出し、従業員自身が運用方法を選び、将来の年金額が運用結果によって決まる制度です。

・企業が掛金を負担(原則)

・従業員が運用商品を選択

・原則60歳まで引き出し不可

・運用成果は自己責任

従来の「退職金制度」や「確定給付企業年金(DB)」とは異なり、運用リスクを従業員が負う点が大きな特徴です。


企業型DCを導入するメリット【企業側】

① 福利厚生の充実による人材確保・定着

企業型DCは「老後まで見据えた福利厚生」として評価されやすく、
特に若手〜中堅層の長期的な定着率向上に効果があります。

「退職金制度がある会社」という印象を与えられる点もメリットです。

② 掛金は全額損金算入できる

企業が拠出する掛金は全額損金算入が可能です。

・法人税の節税効果

・給与として支払うよりも効率的

人件費を抑えつつ、実質的な従業員還元ができる制度といえます。

③ 将来の退職給付リスクを負わなくてよい

確定給付型(DB)と違い、
将来の給付額を企業が保証する必要がありません。

・運用リスクは従業員側

・企業の財務リスクが軽減

・会計上の負担が読みやすい

特に中小企業にとっては大きな利点です。


企業型DCを導入するメリット【従業員側】

① 掛金・運用益が非課税(税制優遇が大きい)

企業型DCは、以下の税制メリットがあります。

  • 掛金:給与扱いにならず所得税・住民税が非課税

  • 運用益:非課税

  • 受取時:退職所得控除・公的年金控除の対象

長期運用を前提とすると、通常の投資よりも圧倒的に税制面で有利です。

② 老後資金を「強制的に」準備できる

原則60歳まで引き出せないため、

・途中で使ってしまう心配がない

・老後資金のベースを確保できる

「貯金が苦手な人」にとっては、半強制的な資産形成手段になります。

③ iDeCoとの併用で老後資金をさらに強化

企業型DCの設計によっては、iDeCoを併用可能なケースもあり、
老後資金形成の選択肢が広がります。


企業型DCのデメリット【企業側】

① 導入・運用の事務負担が増える

・制度設計

・金融機関選定

・従業員への説明

・継続的な管理業務

特に導入初期は、人事・総務部門の負担が増加します。

② 従業員の金融リテラシー格差が問題になりやすい

運用は従業員任せになるため、

・運用成果に大きな個人差が出る

・「損をした」という不満が出やすい

結果として、制度そのものへの不信感につながることもあります。


企業型DCのデメリット【従業員側】

① 元本割れのリスクがある

運用商品を選ぶ以上、

・株式比率が高いと価格変動リスク

・運用次第では元本割れ

「企業が用意してくれた年金=安全」と誤解すると危険です。

② 原則60歳まで引き出せない

・住宅購入

・教育資金

・急な資金需要

こうした場面でも原則引き出し不可な点はデメリットになります。

③ 商品ラインナップが限定される

企業が選定した金融機関・商品からしか選べないため、

・手数料が高い

・魅力的な商品が少ない

と感じるケースも少なくありません。


企業型DCはどんな企業・人に向いている?

向いている企業

・人材定着を重視したい

・退職金制度を合理的に設計したい

・将来の財務リスクを抑えたい

向いている従業員

・長期投資ができる

・老後資金を計画的に準備したい

・税制優遇を最大限活用したい


FPの視点:導入・活用で失敗しないために

企業型DCは、制度そのものが良い・悪いのではなく「設計」と「理解」がすべてです。

企業側:「導入しただけ」で終わらせず、継続的な金融教育を

従業員側:「なんとなく」で商品を選ばず、自分のリスク許容度を把握

必要に応じて、FPなど第三者の専門家を活用することが、企業・従業員双方にとって最も失敗の少ない選択になります。

企業型DCは、
正しく理解し、正しく運用すれば非常に強力な老後資金制度です。

しかし、

・税制メリットだけに注目する

・運用リスクを軽視する

こうした姿勢では、期待外れの制度になってしまいます。

導入・活用を検討する際は、メリットとデメリットを冷静に比較し、自社・自分に本当に合っているかを見極めることが重要です。


企業型DCを導入するか、しないかの判断基準【経営者向け】

―「節税になるから」だけで決めてはいけない理由―

企業型DC(企業型確定拠出年金)は、福利厚生・節税・人材定着の観点から注目される制度です。

一方で、すべての企業にとって「導入すべき制度」とは限りません。

経営者が企業型DCを導入するかどうかを判断する際は、制度のメリットだけでなく、自社の経営フェーズや人材戦略と合っているかを冷静に見極める必要があります。

判断基準① 人材戦略に合っているか

企業型DCは「長く働くこと」を前提とした制度です。そのため、
・中長期で人材を育てたい
・離職率を下げたい
・福利厚生で他社との差別化をしたい
といった企業には相性が良い制度です。

一方で、短期雇用が多い業態や、人材の流動性が高い企業では、従業員に制度の価値が伝わりにくく、コストに見合わない可能性があります。

判断基準② 退職金制度の代替・補完として必要か

すでに退職金制度がある企業の場合、
・将来の支給負担が読みにくい
・会計上の引当が重い
といった課題を感じていれば、企業型DCへの移行・併用は有効な選択肢です。

一方、退職金制度がなく、今後も導入予定がない企業にとっては、「なぜ企業型DCを導入するのか」という目的を明確にしなければ、形骸化しやすくなります。

判断基準③ 経営者自身が制度を理解しているか

企業型DCは「従業員が自ら運用する制度」です。
経営者や人事担当者が制度を十分に理解していないと、
・従業員への説明不足
・運用結果への不満
・「会社のせいで損をした」という誤解
につながりやすくなります。

導入するのであれば、「金融教育を含めて制度を運用する覚悟」があるかどうかが重要な判断軸です。

判断基準④ 事務負担・コストを許容できるか

企業型DCは、掛金そのもの以外にも、
・制度設計
・金融機関とのやり取り
・従業員対応
といった事務負担が発生します。

特に中小企業では、経理・総務の体制を踏まえたうえで「無理なく継続できるか」を冷静に検討すべきです。

判断基準⑤ 「導入しない」という選択肢も戦略か

企業型DCは万能ではありません。
・給与に直接還元した方がよい
・別の福利厚生の方が社員満足度が高い
・経営の自由度を優先したい
こうした判断も、立派な経営判断です。

重要なのは「流行っているから導入する」のではなく、自社の経営戦略と従業員の将来にとって本当に必要かどうかを軸に決めることです。

【結論】企業型DCは「経営の思想」が問われる制度

企業型DCは単なる節税制度でも、コスト削減策でもありません。
「従業員の将来にどこまで関与するのか」という、経営者の思想が色濃く反映される制度です。

導入する・しないの判断に迷った場合は、制度ありきではなく、自社の人材・お金・将来像を整理したうえで判断することが、最も後悔の少ない選択といえるでしょう。


企業型DC 導入判断チェックリスト(YES/NO式)中小企業向け

以下の質問に YES/NO で答えてください。
YESが多いほど、企業型DC導入との相性が良い と考えられます。


【1】人材・組織に関するチェック

□ ① 従業員に「長く働いてほしい」と本気で考えている
□ ② 採用や定着で、他社との差別化が必要だと感じている
□ ③ 福利厚生を「コスト」ではなく「投資」と捉えている
□ ④ 若手〜中堅社員が一定数以上在籍している
□ ⑤ 将来を見据えた人材育成を行っている

▶ YESが3つ以上
→ 企業型DCは人材戦略と相性が良い可能性があります。


【2】お金・制度設計に関するチェック

□ ⑥ 将来の退職金負担をできるだけ見える化したい
□ ⑦ 退職金制度を今後どうするか悩んでいる
□ ⑧ 給与を上げ続けることに限界を感じている
□ ⑨ 法人税・社会保険料の負担を最適化したい
□ ⑩ 中長期的なコスト管理を重視している

▶ YESが3つ以上
→ 企業型DCは「財務面」で検討する価値があります。


【3】運用・実務体制に関するチェック

□ ⑪ 総務・経理が制度運用を担える体制がある
□ ⑫ 外部専門家(社労士・FP等)と連携できる
□ ⑬ 制度導入後も継続的に説明する意識がある
□ ⑭ 「導入して終わり」にしない自信がある
□ ⑮ 従業員の質問に対応する覚悟がある

▶ YESが3つ以上
→ 制度を「形骸化させずに運用」できる可能性があります。


【4】経営者自身のスタンスチェック(最重要)

□ ⑯ 従業員の老後にも一定の責任を持ちたい
□ ⑰ 金融教育の重要性を感じている
□ ⑱ 制度のメリット・デメリットを正直に伝えたい
□ ⑲ 運用結果は自己責任だと明確に説明できる
□ ⑳ 流行や節税だけで制度導入を決めたくない

▶ YESが3つ以上
→ 企業型DCを「正しく使える経営者」の可能性が高いです。


チェック結果の目安

YESが 15個以上

👉 企業型DC導入に非常に向いている企業
→ 制度設計次第で、強力な福利厚生・人材戦略になります。

YESが 10〜14個

👉 条件付きで検討価値あり
→ 設計・説明体制を整えれば導入可能。

YESが 9個以下

👉 今は導入しない判断も正解
→ 無理に導入せず、別の施策(給与・他福利厚生)を検討。


FPからのひとこと(経営者向け)

企業型DCは「節税ツール」ではなく、
会社の価値観を従業員に示す制度です。

✔ 導入して後悔する企業
→ 目的が曖昧・説明不足・丸投げ

✔ 導入して効果が出る企業
→ 人材戦略・教育・長期視点が明確

「導入する/しない」どちらも正解になり得ます。
大切なのは、経営判断として納得して選ぶことです。

2026/1/28