40代で住宅を購入すると、借入期間によっては定年後も住宅ローンの返済が続きます。
現役時代は無理なく支払えていても、退職後に収入が年金中心になると、毎月の返済が家計を大きく圧迫するかもしれません。
「退職金で完済すればよい」と考える人もいますが、老後には住宅の修繕費や医療・介護費なども必要です。
繰り上げ返済を優先すべきか、それとも手元資金や運用資金を残すべきか。
40代から考えたい、住宅ローンと老後資金のバランスについて解説します。
40代で住宅ローンを組む人は珍しくない
住宅金融支援機構の「2025年度フラット35利用者調査」によると、利用者の平均年齢は43.3歳です。
1カ月当たりの予定返済額は平均12万3,800円、平均総返済負担率は22.8%となっています。
現在の収入を基準にすれば返済できる金額でも、老後まで同じ余裕が続くとは限りません。
平均年齢の43歳で30年ローンを組めば完済は73歳、35年ローンなら78歳です。
(出典:住宅金融支援機構「2025年度フラット35利用者調査」)
さらに、2026年1月の調査では実際に住宅ローンを利用した人の75.0%が変動金利型を選んでいます。
一方、金利上昇時に返済額がどの程度増えるかについて、理解に不安がある人などの合計は52.0%でした。
(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果」)
住宅ローンは、今の返済額だけでなく、「60歳時点」「65歳時点」に残高がいくら残っているかを確認する必要があります。
住宅ローンを45歳で4,000万円を借りるとどうなる?
次の40代夫婦を例に考えてみましょう。
夫は45歳の会社員、妻は43歳のパート勤務で、世帯年収は950万円。14歳の子どもが1人おり、金融資産は1,000万円です。住宅購入にあたり、4,000万円を25年間、年1.5%の固定金利で借りたとします。
元利均等返済、ボーナス返済なしで試算すると、返済状況は次のようになります。
| 項目 | 試算結果 |
| 毎月返済額 | 約16万円 |
| 年間返済額 | 約192万円 |
| 60歳時点のローン残高 | 約1,782万円 |
| 65歳時点のローン残高 | 約924万円 |
| 完済年齢 | 70歳 |
| 総返済額 | 約4,799万円 |
現役時代の世帯年収950万円に対して年間192万円の返済であれば、返済負担率は約20%です。
一見すると無理のない範囲に見えます。
しかし、65歳以降は状況が一変します。
2026年度の標準的な厚生年金額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月額23万7,279円です。
ただし、これは平均的な収入で40年間就業した場合のモデルであり、実際の受給額は夫婦の働き方や加入期間によって異なります。
(出典:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」)
仮に夫婦の年金が月23万7,000円だとすると、月16万円の住宅ローン返済は年金収入の約67%に相当します。
税金や社会保険料を差し引く前の金額で比較しても、この負担は軽くありません。
老後は住宅ローン以外の支出も増える
総務省の2025年「家計調査」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では月の可処分所得が約22万2,000円であるのに対し、消費支出は約26万4,000円です。
平均的な高齢夫婦世帯でも、毎月約4万2,000円の不足が生じています。
(出典:総務省統計局「家計調査」)
住宅ローンが残っている世帯は、これとは別にまとまった返済原資を用意しなければなりません。
また、持ち家になれば住居費がゼロになるわけではありません。
固定資産税、火災・地震保険料、給湯器や屋根・外壁などの修繕費がかかります。
マンションであれば、管理費や修繕積立金が将来値上がりする可能性もあります。
「住宅ローンさえ完済すれば安心」ではなく、完済後も住宅を維持するためのお金が必要なのです。
住宅ローンを「退職金で完済」は本当に安全か
定年時に残った住宅ローンを、退職金で一括返済する計画を立てている人もいます。
先ほどの夫婦では、65歳時点の残高は約924万円です。
退職金が2,000万円あれば、完済後も約1,076万円残ります。
しかし、このお金から老後の生活費不足、住宅修繕費、医療・介護費、自動車の買い替えなどを賄わなければなりません。
たとえば、毎月5万円の生活費不足が20年間続けば、単純計算で1,200万円必要です。
退職金を住宅ローンの返済に使い切れば、日常生活に必要な現金が不足する恐れがあります。
退職金は「住宅ローン返済専用のお金」ではありません。老後全体を支える大切な金融資産です。
繰り上げ返済と運用、どちらを優先する?
繰り上げ返済をすれば、将来支払う利息を確実に減らせます。
一方、繰り上げ返済に使ったお金は、原則として自由に引き出せなくなります。
先ほどの夫婦が55歳時点で500万円を繰り上げ返済する場合を試算すると、期間短縮型では返済期間を約3年2カ月短縮でき、完済年齢を70歳から67歳前後に早められます。
利息の軽減効果は約112万円です。
返済額軽減型を選ぶと、毎月返済額を約16万円から約12万9,000円へ減らせますが、完済年齢は70歳のままです。
利息軽減効果は約59万円にとどまります。
定年前後の完済を目指すなら「期間短縮型」、毎月の家計負担を軽くしたいなら「返済額軽減型」が候補になります。
ただし、次のような資金まで繰り上げ返済に回すべきではありません。
・病気や失業に備える生活予備資金
・数年以内に必要となる教育費
・住宅の修繕・リフォーム資金
・自動車の買い替え費用
・親の介護などに備える資金
住宅ローン控除を受けている期間中は、繰り上げ返済によって年末残高が減ると控除額も減少します。
返済期間の短縮によって控除要件を満たさなくなる可能性もあるため、税負担を含めて判断する必要があります。
住宅ローンが低金利なら運用を続けたほうがよい?
住宅ローン金利が低ければ、「繰り上げ返済をせず、NISAなどで運用したほうが有利」と考えることもできます。
たとえば、住宅ローン金利が年1.0%で、運用によって年3~4%程度の収益を長期的に得られれば、計算上は運用を続けるほうが資産を増やせる可能性があります。
しかし、住宅ローン金利は支払うことが確定している一方、運用収益は保証されていません。
定年直前に株式市場が大きく下落すれば、運用資産を取り崩して住宅ローンを返済する計画が崩れることもあります。
したがって、金利と期待利回りだけを比較して決めるのは危険です。
運用を優先できるのは、当面の生活費や教育費を確保し、相場が下落しても住宅ローンを返済できる家計です。
住宅ローンを組む前に確認したい5つの数字
住宅ローンを組んでいる40代夫婦は、少なくとも次の数字を確認しておきましょう。
①現在の住宅ローン残高と適用金利
②60歳・65歳・70歳時点のローン残高
③夫婦それぞれの年金見込額
④退職金の見込額と受取時期
⑤定年後の生活費と住宅維持費
変動金利型の場合は、適用金利が1%、2%上昇したケースも試算します。
住宅金融支援機構も、2024年3月のマイナス金利政策解除以降、変動金利型住宅ローンの金利は上昇傾向にあると説明しています。
返済計画は、現在の収入ではなく、収入が減った後の家計を基準に考えることが重要です。
(出典:住宅金融支援機構「金利のある世界での住宅ローン選び」)
目標は「何が何でも完済」ではない
定年までに住宅ローンをゼロにすることが、すべての世帯にとって正解とは限りません。
低金利の固定ローンで十分な預貯金や運用資産があり、年金収入の範囲内で返済できるなら、あえてローンを残す選択肢もあります。
一方、「年金収入に対する返済割合が大きい」「変動金利で残存期間が長い」「退職金を使わなければ返済できない」という場合は、現役時代から期間短縮型の繰り上げ返済を検討する必要があります。
大切なのは、「住宅ローンを完済できるか」だけではありません。
完済した後にも、生活を維持できる資産が残っているかどうかです。
40代は教育費や老後資金の準備が重なる時期です。
繰り上げ返済、預貯金、資産運用のいずれか一つに偏らず、まずは生活予備資金を確保し、そのうえで定年時のローン残高を計画的に減らしていきましょう。
住宅ローンの本当の返済能力は、収入が多い現役時代ではなく、収入が減った定年後に試されます。
老後も続く返済を「将来の自分の問題」にせず、40代の今から数字で確認しておくことが、老後の暮らしと大切な自宅を守ることにつながります。
※本文の住宅ローン試算は、元利均等返済、ボーナス返済なし、手数料等を考慮しない概算です。実際の返済額や繰り上げ返済効果は、金融機関の契約条件によって異なります。
