みなさん、こんにちは。
相続手続きカウンセラーの山原です。
本日は「相続手続きの前に「遺言書」を探しましょう①」をお伝えします。
あらゆる相続手続きを始める前に必ず確認しておくべきことがあります。
これらを確認しないままいきなり手続きを始めてしまうと、後々トラブルに発展し、場合によっては全てやり直しになってしまう可能性があるため注意が必要です。
その一つが以前コラムにも書いた「相続人はだれ?」でした。
そして、相続手続きに最も影響を与えるのは「遺言書があるかどうか」です。
■近年の遺言書
ここ数年、新型コロナウィスルにより毎日死者数の報道をみることで死を身近に考える機会が増えたためか遺言書への関心も高まっており、令和元年の1年間に全国で作成された遺言公正証書は約11万件と、10年前より1.5倍になっています。(最高裁判所/司法統計より)
親が亡くなった後で部屋を片付けていて見つけるなど、一般的にイメージする遺言書はこの数に含まれていませんので、実際にはもっと多くの方が遺言書を遺されています。
遺言書は、遺言者の死亡後にその意思を確実に実現させる必要があるため、法律によって厳格な方式が定められており、その方式に従わない遺言は、全て無効となります。
ちなみに映画やドラマのように、いまわのきわで
「財産は全部お前にやるからね…」
と言い残したとしても法律上の効力はなく、現在のところ録音や動画での遺言も法的効力は認められてはいません。
ただ、法的な効力はなくても
「今までありがとう」
「みんな仲良く暮らしてね」
「ペットの世話を頼んだよ」など
本人の想いや考えを相続人に伝えるために添える「付言」を動画で残す方は増えたように思います。
遺言を動画で撮影して大切な人に届けるサービスとして、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんがプロデュースされたスマホによる遺言書動画アプリ『ITAKOTO』も話題になりましたよね。
「ITAKOTO(イタコト)」には
- 残された方に “いいたかったこと”
- その人がこの世に “いたこと”
- 今を生きる人にメッセージを伝える “いたこ”
の意味が含まれているそうです。
ご興味のある方は田村さんの著書『母ちゃんのフラフープ』をお読みになると、なぜこのサービスを発案されたのかという背景や遺言の大切さを伝えようとする意図がよく分かります。
それにしても、リリーフランキーさん著『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』を読んだときも感じましたが、生きている間は母娘ほど親密に話すことはないとしても、男性にとって母親はスペシャルで聖母的存在なのかもしれませんね。
何事にもまったく動じない実父の涙を初めてみたのも祖母の葬儀でした。
どちらも説得や押しつけの知識ではなく、大切なことがじんわりと伝わる本なので、ぜひ一度読んでみてください。
残される家族へなんらかのメッセージは残しておいてもらいたいと考える一方で「遺言書なんて大袈裟なものは必要ない」と思っている方や、「遺言」という言葉にネガティブな印象をもっている親御さんの考え方が変わるかもしれません。
閑話休題。
それでは、法律的に効果のある遺言書にはどんな種類があるのでしょうか。
■遺言書の種類
法律上効果のある一般的な形式は3種類あります。
●公正証書遺言
公正証書遺言とは、2人の証人が立ち会いの下、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言です。作成した遺言書は公証人役場で保管されます。
【メリット】
- 公正証書遺言は法律に精通した公証人が作成するため、不備による無効になるリスクがない
- 出張作成制度があるので自宅や病院で寝たきりの人でも作成が可能
- 公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるので偽造や紛失の心配がない
【デメリット】
- 作成に時間と費用がかかる
- 内容を秘密にできない
●自筆証書遺言
遺言者が、書面に遺言書の作成年月日、遺言者の氏名、遺言の内容を、自署(パソコンは不可)で記入し、自身の印鑑を押印するという遺言方式です。
※自署について平成31年1月13日から新しい民法が施行され、相続財産の目録については自署する必要はなくなりました。
【メリット】
- 自宅で手軽に作成でき、紙・ペン・印鑑などがあれば簡単に作成できる
- 作成にかかる費用が非常に安い
【デメリット】
- 間違った形で遺言書を作成すると遺言が無効になる場合がある
- 自宅などで保管する場合には偽造や盗難のリスクがある
●秘密証書遺言
遺言者が、①遺言内容に署名押印し、②当該遺言書を封筒に入れて封じ、封印に押印したものと同じ印章をしたうえ、③公証人にこれを提示して所定の処理をしてもらう、という方式。
自筆証書遺言と公正証書遺言の中間のような遺言で、証人と公正人には遺言の内容は公開せず、遺言書があるという事実だけを確実にするのが目的になります。
【メリット】
- 内容を他人に秘密にできる(遺言が存在すること自体は第三者に知られる)
- パソコンや代筆による作成が認められているため、字が書けない状態にある人でも作成できる
【デメリット】
- 公証役場に出向いて手続きをする必要があり手間と費用がかかる
上記のように、それぞれにメリット・デメリットがあり、状況や目的に合わせて自分に合った方式を選択することができます。
逆に言えば、自筆証書遺言は財産目録以外の全文を手書きしなければならないので、病気等で手が不自由な方や高齢で字が書けなくなった方は選択することができません。
私の祖母は利き手が関節リュウマチになり名前を自署することも難しくなったため、公証人に依頼して公正証書遺言を作成しました。
費用はかかりましたが、専門家に関与してもらうことで家族としては作成した遺言書に「不備はないか」「漏れはないか」「紛失しないか」という不安におびえずに済んだので安心感にお金を払ったという感じでした。
いずれにしても、遺言書があるかないか、あった場合はどの種類の遺言書かによって、相続手続きの流れが異なります。
次回は「遺言書の探し方と保管方法」についてお伝えします。
(2022年11月6日時点の情報に基づいています)