みなさん、こんにちは。
相続手続きカウンセラーの山原です。
本日は「知らなかったではすまされない!相続の対象になるマイナス財産」についてお伝えします。
『遺産相続』と聞くと預金や不動産などプラスのものばかり思い浮かべがちですが、忘れていけないのは「マイナス財産」です。
マイナス財産は家族に秘密にしている人も多いので、相続が発生してから初めてその事実を知ることも少なくありません。また、預金残高が十分にあるからといって(借金なんてないだろう)とよく調べないまま相続手続きを進めてしまうと、とんでもない悲劇に見舞われる可能性もあります。
マイナス財産とは何か、現時点で親の資産状況をよく知らない方もぜひご一読ください。
■相続の対象になる「マイナス財産」とは?
まず、相続の対象になる代表的なマイナス財産には以下のようなものがあります。
- 借金(銀行・消費者金融・個人間など)
- ローン残高(住宅・自動車など)
- 日常生活費(光熱費・通信費・家賃など)の未払い
- 税金や社会保険料の未納・滞納
- 保証債務(連帯保証人)など
●借金
マイナス財産と聞いて最初に思い浮かべるのが借金ですね。
金融機関からの借入は比較的容易に把握できますが、友人などからこっそり借りているお金は相手から請求されるまで分からないこともあり厄介です。
●ローン残高
単なる借金の他に、住宅や自動車など高額な買い物を目的に契約した分割払い途中のローン残高もマイナス財産となり相続人が引き継ぐことになります。
ただ、住宅ローンについては多くの方が契約時に団体信用保険に加入されています。
団体信用保険とは、住宅ローン返済中に契約者に万が一のことがあったとき、住宅ローン残高がゼロになる保険のことです。住宅ローン残高に相当する保険金をそのまま返済に充てる仕組みとなっていますので、相続人に債務は残りません。
団体信用保険への加入が住宅ローンの融資条件になっていることも多いため、保険に入った覚えがない方も念のために加入の有無を確認しましょう。
尚、団体信用保険の保険金は相続税の対象ではありません。
●未払金
日常生活で発生している家賃や水道光熱費、通信費などで、まだ払っていないお金はすべてマイナス財産として相続します。
クレジット払いにしているものは、利用残高の返済義務がマイナス財産として相続の対象となります。ちなみに、クレジットカードそのものを相続することはできません。なぜならクレジットカードは個人に対しての信用審査によって会員資格が認められるものだからです。例えば、クレジットカードの最高峰と言われるブラックカードを持っている大企業の役員が亡くなったとして、相続人である役員の妻や子がその会員資格を受け継ぐことはできないですよね。
日常生活費用として最近よく話題に上がるのが『サブスク』の料金です。
サブスクとは「サブスクリプション」の略で、「予約購読」「定期購読」「会費」など月額課金・定額制で契約するサービスを指します。サービス内容はすでに多くの方が利用している動画配信・音楽配信だけでなく、電子書籍、ゲーム、食材、美容器具、車、洋服・アクセサリー、家具、習い事など、多岐にわたっています。
サブスク料金をクレジットカード決済で契約している方が多いですが、契約者が亡くなった後そのクレジットカードを解約しただけでは元のサービスを解約したことにはなりません。
支払滞納で自動的に契約解除されるケースもありますが、本人が亡くなったあとも解約や退会手続きをするまでサービス料金がかかり続けるものもあり、滞納分はマイナス財産となります。
以前、我が家でも母のカード請求額が増えているなと思って明細をチェックすると、いろんな動画サイト(Netflix、U-next、Disneyプラス、NHKオンデマンドなどなど)の視聴料がずらっと載っていたことがありました。孫たちと一緒に無料トライアルであれこれ観て、おそらく無料期間終了後もそのままにしていて自動で有料契約に移行されてしまったのでしょう。
支払っている本人すら何の料金なのか把握できていないような場合もありますので、老親の利用明細は定期的に確認しておく方が安心ですね。
●税金や社会保険料の未納・滞納
所得税・住民税・固定資産税などの税金や国民健康保険料の未納についても相続の対象となり、生前すでに督促又は滞納処分が行われている場合、その状態をそのままマイナス財産として引継ぐことになります。
また、相続人に対して送られてきた「納税義務承継通知書」を放置すると相続人に対して滞納処分が行われます。
●保証債務
ひとことに保証債務といっても内容は様々ありますが、マイナス財産の代表は『連帯保証人』の地位です。
お金を借りた本人が支払っている限り債務にはなりませんが、いつ債権者から借金返済を求められるか分からず、亡くなった後も家族をずっと不安にさせるため「負の時限爆弾」とも言われます。親から「連帯保証人にだけはなるな」と教育された方も多いのではないでしょうか。
ただ、どうしても必要な場合もありますよね。
私の身近なところでは、甥が大学の奨学金を借りるときに本人の父親が連帯保証人になりました。さらに、「保証人(原則として4親等以内の親族で本人及び連帯保証人と別生計の人)も必要」ということで、頼まれて伯母である私が保証人になりました。
保証人は奨学生本人や連帯保証人が返済できないときには代わりに返済をしなければなりません。また、この保証人の地位も相続の対象となります。
(ちなみに、甥が企業へ就職した際、企業から求められて本人の父母が「身元保証人」になりましたが、この地位は相続の対象にはならないとされています。)
保証人も連帯保証人も保証契約によって保証債務という責任を負う役割でありながら、なぜ「連帯保証人になってはいけない!」と言われるのでしょうか。
■「保証人」と「連帯保証人」は大違い!
保証人と連帯保証人は責任の範囲が大きく違います。連帯保証人は「お金を借りた本人(主債務者)と同一の責任を持って主債務の履行を負う」という、かなり重い責任を負うことになります。銀行や金融機関で借金をする際、ほとんどの場合「連帯保証人」が必要です。
そして、連帯保証人には保証人に認められている身を守る3つの権利がありません。
●『催告の抗弁権』
『催告の抗弁権』とは「先に借金した本人に請求してほしい」と言う権利です。
保証人は、「主債務者が返済しなかったとき」に返済する責任が生じます。つまり、「お金を返せ」と請求されたとき「まずは主債務者に請求してください」と反論できる権利があります。
しかし、連帯保証人はこの権利がありません。
請求されたらお金を借りた本人よりも先にお金を返さなければならない場合が生じます。
●『検索の抗弁権』
『検索の抗弁権』とは「先に借金した本人から差し押さえにしてほしい」と言う権利です。
主債務者に催告しても返済されないとき、お金を貸した人から「お金を返せ」と請求されれば、保証人の財産が差し押さえられる可能性があります。ただし、保証人が「借金した本人に実は財産があって差し押さえが容易」だということを証明すれば、保証人はこのタイミングで差し押さえられることを防げます。
しかし、連帯保証人にはこの検索の抗弁権がありません。
いきなり債権者が自宅などの財産に強制執行をかけてきても文句が言えないので、場合によってはお金を借りた本人よりも先に財産を差押えられる可能性があるということです。
●『分別の利益』
『分別の利益』とは「保証人が複数いるなら、人数で割って請求してほしい」という権利です。
保証人が複数いるとき、各保証人はそれぞれの負担額についてのみ責任を負うことになります。自分の負担している債務の金額を超える部分については責任を負わなくてよいので、仮に返さなければならないお金が600万円で、保証人が3人いれば、1人あたり200万円の返済が義務となります。
しかし、連帯保証人には分別の利益もありません。
つまり、600万円返さなければならないとき、連帯保証人が何人いても債権者に返済を求められたら1人あたり600万円全額を返済する責任があるのです。
このように、保証人と連帯保証人では責任の重さがまったく違い、なぜ連帯保証人になってはいけないと言われるのか理由がご理解いただけたと思います。
ただし、債務者が自己破産してしまったような場合、「催告の抗弁権」も「検索の抗弁権」も意味がなくなってしまいますから保証人という地位を甘くみてはいけません。
そして、いくら「自分は絶対に連帯保証人にならないぞ」と心に誓っていても
親が連帯保証人になっている事実を知らないまま相続
⇒ ある日突然、巨額の連帯保証債務を抱えることになり
⇒ お先真っ暗…
このような展開になるとも限りません。親が連帯保証人になっていたせいで子の人生まで変わってしまうことはドラマの中だけではありません。
必ず親が元気なうちに保証債務の有無については確認しておくようにしましょう。
確認できないまま相続が発生した場合、プラスの財産を相続した後で
「借金があるなんて知らなかった」
「連帯保証人になっているなんて聞いてない」
と言っても通りません。
あとの祭りとならないよう、相続が発生したら速やかに調査した上で遺産相続するかどうかの判断も含め対処しなければなりません。
次回、「知らなかったではすまされない!②亡くなった親の借金の調べ方」についてお伝えします。
(2023年1月22日時点の情報に基づいています)