みなさん、こんにちは。
相続手続きカウンセラーの山原です。
本日は2024年から施行される「相続登記の義務化」を前に、実家を放置するリスクや近年の不動産への価値観の変化などに少し触れておきたいと思います。
■所有者不明土地が発生する理由
現在日本には誰のものだか分からなくなっている土地が41万ヘクタールもあることをご存じでしょうか。41万ヘクタールと言われてもピンと来ませんが、その大きさは九州の面積以上でなんと国土の22%!
このまま放置すれば2040年には北海道くらいになると推測されているというから驚きですよね。
所有者が分からない土地が発生する最大の理由は相続登記の未了です。「相続登記」とは相続した不動産の名義を変更することです。
所有者が亡くなったあと相続登記をせず故人名義のまま放置している不動産は、すべての相続人の共有財産とされます。その後、共有者の1人が亡くなるとそこに新たな相続が発生しますが、その方の相続人が亡くなった方に不動産の持分があることに気づかないまま放置すると、また相続人全員による共有財産とされ・・・どんどん共有する人数が増えていき時間の経過とともにいったい誰がその不動産の所有者なのか分からなくなってしまうのです。
そして、誰のもの分からない土地は売ることも買うこともできず公共事業や防災対策の妨げになったりしています。
以前聞いたニュースでは、国道を広げるために沿道の所有者を調べたところ登記されていたのは明治生まれの女性(もちろん故人)で相続人が148人にもなっていたそうです。
土地を買い上げようにも148人全員から同意をもらう作業・・・果たして可能なのでしょうか。
■なぜ相続登記に義務や期限がなかったのか
多くの不動産についてなぜ相続登記がされてこなかったのかというと、これまで相続登記に義務はなく期限も決まっていなかったことが理由に挙げられます。
そもそも相続登記を義務にせず期限も設けなかったのはなぜなのでしょうか?
聞くところによると、不動産登記に関する法律ができた当時の日本人にとって不動産は付加価値の高い財産であり、期限などを設けなくても当然に自分の不動産を守り管理するだろう思われていたからだろうということでした。
1920年から5年ごとに行われてきた国勢調査で人口の推移をみると、日本の人口は右肩上がりに増え続け、それに伴い不動産の需要も増え将来的な資産価値としても高く考えられていました。
しかし、2008年の1億2808万人をピークに人口が減少へと転じ2060年頃には8700万人程度になると予想されている中で不動産に対する価値観は大きく変わりつつあります。特に過疎化が進む地方では『いらない資産』と認識する人も増えてきました。
私の母方の実家は高知県の足摺岬の近くにあるのですが、『最後の清流』として知られる四万十川の美しさ、藁焼きで食べるカツオのたたきの美味しさなど毎回感動する素敵な場所です。
祖父母の家の近所には親類縁者も多かったので帰省時は挨拶回りで1日が終わってしまうのが常でした。けれども、年々亡くなる方や施設に移る方の空き家が目立つようになり今では数件だけになってしまいました。
地元を離れ首都圏で生活している人から法事の席で「誰も住む予定がない実家をどうしたらよいのか困っている」「畑を相続したけど会社勤めの自分には無用なので手放したい」という話を耳にするたび『いらない不動産』が確実に存在していることを実感します。
■実家が「空き家」になっているリスク
持ち家について2019年の統計で全国の65歳以上の持ち家率は、単身世帯で66%、夫婦世帯で87%となっていますが、居住者の死亡・転居、実家を相続した子などが居住しないなどの理由による空き家が1998年から2018年の20年間で約1.9倍の182万戸から347万戸に増加しています。これは一部の地方だけでなく高齢化社会の日本全体でこれから相続による「空き家問題」もますます増えると予想されます。
空き家のなにが問題かというと、人が住んでいない状態で放置されている家に空き巣が入ったり不法占拠、放火されるなどの犯罪リスク、手入れされていない建物の老朽化による倒壊、水漏れ、悪臭など災害リスクが上昇することです。
残念なことですが、自然豊かな場所で祖父母の代から大切に暮らしてきた家であっても、空き家になり手入れを怠ればあっという間に劣化して「問題のある家」となってしまいます。
実際にそれらが発生した場合は所有者だけでなく近隣住民にも迷惑がかかり、治安悪化や景観が損なわれることでそのエリア全体の資産価値まで低下する可能性もあり社会問題視されています。
そこで、空き家問題を解決するため2015年に「空き家など対策の推進に関する特例措置法」が施行され次のようなことが可能になりました。
- 危険な空き家の実態調査
- 所有者への空き家の適切な管理指導
- 跡地の活用促進
また、空き家を放置していると固定資産税が跳ね上がるようになりました。倒壊の恐れがある、衛生上有害である、著しく景観を損なっているなど特に問題がある建物は「特定空き家」に指定されます。「特定空き家」に指定されると、空き家に対する助言、指導、勧告、命令が行われ、税金の軽減措置からも除外されてしまうので固定資産税の課税額が最大6倍にもなってしまうのです。
このような事態にならないためには、相続してから法事の席で「実家をどうしよう」と考えていては手遅れになりかねません。親が元気なうちに親が住んでいる家を将来どうするかなどについて話し合っておきましょう。
■2024年に相続登記が義務化されます
所有者不明土地の対策として2024年4月1日からは土地の相続登記が義務化されることになりました。
遺言書を含む相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したと知った日から(遺産分割協議によって取得した場合は、遺産分割協議が成立した日から)3年以内に相続登記の申請が必要になります。
例えば、死亡日5月1日、故人が不動産を持っていると知った日が7月1日だとしたら、7月1日から3年以内と計算します。
これらの義務に正当な理由なく違反すると10万円以下の過料が課されます。
施行日以前に発生したケースはどうなるのか?が気になるところでしたが、施行日以前の相続でも適用されることが決まりました。その場合の登記期限は原則2027年3月31日です。
■まとめ
実家以外にも、親世代では人気のあったリゾートマンションや別荘地が、子の世代からは「管理が大変で修繕積立金などの負担も大きい」などの理由で相続してもメリットのない遺産の上位にランキングするなど親子間で世代による不動産への価値観に大きな隔たりが出てきています。
このような価値観のギャップに気づかず「子供のために」と自己満足で不動産を残しても、喜ばれるどころか子や孫にまで大変な負担を負わせてしまう可能性があります。
将来まで見据えた相続対策をするためにはそれぞれが考えていること、知っている情報をしっかり伝えあうことが重要ですね。
すでに実家が空き家になっている方やの名義を変更していない方は問題が大きくなる前に対応しておきましょう。
次回は『相続土地国庫帰属制度』についてお伝えします。