みなさん、こんにちは。
相続手続きカウンセラーの山原です。
前回のコラムでは「遺産の預貯金残高確認」についてお伝えしました。
本日は「遺品整理で気づかれなかった預金はどうなってしまうのか」について相続なんてまだまだ先!という方にもチぜひチェックしていただきたい「休眠預金はありませんか?」をお伝えします。
以前、ある信用金庫から父宛に1通のハガキが届きました。
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「ご預金ご確認のお知らせ」
拝啓
当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。
さて、お取引いただいております以下の口座については長い間
入金・出金等のお取引がございません。
万が一お忘れの場合は当店宛にご連絡ください。
敬具
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ハガキの下の方には「お客様番号」「口座番号」「預金残高」「担当支店名と電話番号」の記載もありました。
連絡くださいとのことなので、とりあえず支店へ電話をしてみると
「このまま取引がないと来年の3月で休眠預金になる」
「休眠預金になったとしても手続きすれば、いつでも預金は引き出せる」
との説明がありました。
当時、父は入院中で通帳や印鑑の所在もはっきりせず、銀行まで出向いての手続きは難しかったため、一度は「わかりました。」と電話を切ったものの、わざわざ休眠預金に移行させる意味があるのだろうかと、何か腑に落ちない気持ちで休眠預金について調べてみました。
(最終的にどうなったのかはコラム後半に)
■休眠預金とは
休眠預金とは、対象預金等のうち、引き出しや預入れ等の異動が最後にあった日から10年を経過したものをいいます。
休眠預金の対象になる主なものは、銀行の普通預金や定期預金をはじめ、ゆうちょ銀行の通常貯金や定期貯金、定額貯金、信用金庫の普通預金や定期積金などです。
財形住宅や財形年金など、特定の目的のための預貯金や、マル優の適用となっている預貯金、外貨預金などは対象外です。
「10年」のカウントスタートは最後の取引が2009年1月1日なので、2019年1月時点で既に10年以上取引のない預金はこの休眠預金には該当しません。
なぜなら、それらの預金については「法律に基づく規定等の定めにより、預金者の権利喪失を事由に、金融機関の収益として既に会計処理されている」からだそうです。
つまり、法律上で銀行の預金には5年、信用金庫・信用組合の預金には10年の消滅時効が存在していて、これまでは気づかないまま金融機関のものになっていたのですね。
ただし、実際には金融機関は時効を援用せず、預金者(相続人含む)の請求があれば取引していた金融機関の窓口で払い戻しに応じているようですから、長く使っていない預金口座を見つけた場合は古いものでも問い合わせてみましょう。
■休眠預金になるまでの流れ
金融庁によると休眠預金は毎年1,200億円程度発生しているというから驚きです。
なぜこれほど休眠預金が発生するのでしょうか。
(図1 「休眠預金になるまでの流れ」 政府広報オンラインより)
休眠預金になるまでの流れとして、まず最後の取引から9年以上経過すると、金融機関より通知が届きます。
しかし、残高1万円未満だと通知は送付されず、1万円以上でも金融機関に登録をしている住所が現住所と異なると通知が届きません。電子メールのアドレスについても同様で、預金者本人が口座を開設したことを忘れていれば、そのまま休眠預金になってしまいます。
お金の管理をきちんとしている人には口座を開設したことを忘れるなんて信じがたいかもしれませんが、例えば毎年「宝くじで1等に当選したにもかかわらず未換金のままにする人」が存在します。そして、換金されない理由の多くは「そもそも買ったことを忘れている」そうですから、昔に作った口座を忘れていても不思議はないのかもしれません。
さらに、たとえ通知が届いても多くの銀行では口座を開設した支店の窓口でしか手続きができないため「出向くのが面倒でATMで引き出しができない1000円未満になった口座は諦める」という方などが放置した結果、休眠預金になるケースもあります。
そして、休眠預金の代表格は「預金者が亡くなった口座」です。遺産として気づかれなかった預金や「相続手続きが大変」などを理由に相続人が手続きを放置した結果、休眠預金となっています。
【休眠預金にならないケース】
(図1)にもあるように休眠預金にならない流れもあります
■金融機関に登録された住所や電子メールアドレスに通知が届いた場合
通知が届けば休眠預金になりません。そこから次の10年間カウントがスタートします。
■10年以内に「異動」している
通知が届かなくても10年以内に「異動」していれば休眠預金になりません。「異動」とは、預金者が今後も預金を利用する意思を表示したものとして認められるような取引です。
- 入出金(金融機関による利子の支払を除く)
- 手形または小切手の提示等による第三者からの支払請求(金融機関が把握できる場合に限る)
- 預金者等による通帳や証書の発行、記帳、繰越
- 預金者等による残高照会
- 預金者等の申出による契約内容・顧客情報の変更
- 預金者等による口座を借入金返済に利用する旨の申出
- 預金者等による預金等に係る情報の受領
- 総合口座等に含まれる他の預金等の異動 など
入出金などは、全金融機関共通で「異動」になりますが、例えば通帳への「記帳」は「異動」と見なされない場合もありますので、詳細は取引のある金融機関で確認する必要があります。
■休眠預金は没収されてしまう?
休眠預金になったお金はいったいどこへ行くのでしょうか。
2018年「休眠預金等活用法」が施行され、図2のように休眠預金は「預金保険機構」に移管されて、NPO法人など民間の様々な団体が行う民間公益活動のために活用されることになりました。
(図2 「休眠預金活用の仕組み」 政府広報オンラインより)
移管が始まった19年には600億円が移され、その中から台風被害が大きかった地域への支援活動に充てられ、20年度は特例でコロナ支援枠として19億円が助成されました。最新情報は、「日本民間公益活動連携機構(JANPIA)」のホームページで確認することができます。
具体的な事例を知ると、お金はただ銀行に眠っているよりもそのお金による支援で助かる人がいるなら有効に使ってほしいと思う反面、遺産などはせっかく築いた財産が家族に気づかれないまま消えてしまうのは忍びないという気持ちもあります。
相続対策の観点からはやはり元気なうちに口座の整理をお勧めしたいと思います。
さて、最後に「休眠預金になったお金は没収されてしまうのか?」を父宛に届いた「ご預金ご確認のお知らせ」の顛末と併せて書いておきましょう。
休眠預金について上記のような情報を得た上でもう一度支店へ電話をして
「通知が届いている時点で休眠預金にはならず、引き続き通常どおりの預金として取り扱われるのではありませんか?」と尋ねてみました。
担当の方は頑なに
「いえ、そういうことはありません。来年3月までに手続きに来られない場合は休眠預金になります。」を繰り返されます。
そこで、
「御行のホームページにも休眠預金の定義として、通知を預金者の方に郵送しても届かない口座と明記されています。もう一度お調べいただけないでしょうか。」
と食い下がってみました。
すると、ようやく「確認します」と電話を切られ、
30分後「今後10年間は休眠預金にならないことが確認できました。」と回答があり、私の中で一件落着となりました。
今回のことに限らず様々な手続きをして分かったことは、特に新しい制度が導入された直後など取扱い先にもその制度に詳しい人とそうでない方がいるということです。
当たり前ですが、何かおかしいなと思うことがあれば、(相手の方が専門家だから・・・)とひるまずに納得できるまで確認した方がいいですね。
特に相続手続きに関するアドバイスとして、関係各所で手続きをする際に
「相続手続きに詳しい方をお願いします。」
と言って最初から担当の方に繋いでいただくことをおススメしています。
公的機関や金融機関でも相続に精通している人ばかりではありませんので、たまたま電話に出た人や受付で対応してくれた方にあれこれ詳しく説明しても正しく伝わらず二度手間になることが多く、間違った説明をされて不利益を被らないためです。
そして、休眠預金は一度移管されてしまうとそのまま没収されてしまうのかというと、そうではありません。
一部の例外はありますが、最初に信用金庫の方から最初に説明があった通り、たとえ休眠預金になったとしても取引のある金融機関へ通帳・取引印・本人確認書類等を持参して手続きをすればいつでも「元本+利息」が引き出せます。
その口座が後々見つかった故人のものであっても、相続人が所定の手続きをすれば引き出すことができますのでその点はご安心ください。
(追記)
郵政民営化前の2007年9月末以前に預けた定額郵便貯金、定期郵便貯金、積立郵便貯金については、満期後20年経過した際に「権利消滅のご案内(催告書)」が送られ、その後2か月放置すると旧郵便貯金法の規定で権利が消滅し、払戻しが受けられません。
送付された催告書の8割は住所不明等で本人に届いておらず、その結果2020年は369億円、2021年は457億円が権利消滅し、国庫に納付されています。
「権利消滅のご案内(催告書)」が届いた場合、記載の送付日から2か月以内に払戻しを行わないと権利が消滅していまいますので、早急に以下の必要書類を持ってゆうちょ銀行または郵便局の貯金窓口で手続きを行ってください。
≪必要書類≫
- 郵便貯金証書(証書を紛失している場合は、催告書)
- お届け印
- 本人であることが確認できる証明書類
郵便局へ預けていた高齢者の方も多いと思いますが、こういう情報は必要な人になかなか届かないものです。
親御さんが引越しで住所が変わったなど少しでもお心当たりのある方は郵便局に古い貯金がないか一緒に確認してみてくださいね。
(2023年1月8日時点の情報に基づいています)