みなさん、こんにちは。
相続手続きカウンセラーの山原です。
本日は「相続手続きの前に「遺言書」を探しましょう③遺産分割協議」についてお伝えします。
前回のコラムで自筆証書遺言は「検認後でないと相続手続きができない」というお話をしました。
では、遺言書そのものがない場合はどのようにすすめれば良いのでしょうか。
■遺言書がないときの相続手続き
遺言書がなく法定相続分とは異なる遺産分割を行う場合、法定相続人が集まって遺産分割協議によって「誰が・どの財産を・どれだけもらうのか」を話し合いの上、法定相続人の納得がいくように遺産を分けます。
民法で相続人になれる人の範囲や順位を定められており、相続権がある人を「法定相続人」と呼びます。法定相続人の基準は、被相続人との親密さや生活の実態には影響されず戸籍上の関係を重視します。(【コラム】相続人は誰だ)
法定相続人以外は一切の遺産を相続することができませんから、例えば長男の妻がたったひとりで亡くなった義父を献身的に介護していたような場合でも法定相続人ではない長男の妻が遺産をもらうことはできません。
このような場合は特に遺産分割協議の前に遺言書があるかどうかしっかり探しておくことが重要です。(【コラム】遺言書の探し方)
(長男の妻など、相続人以外の一定の親族の寄与について認めていこうという『特別寄与料』についてはまた別のコラムでお伝えします。)
なぜなら、遺言書には「時効」がありませんから、協議が終わり遺産分割した後で遺言書が見つかって
「お世話になった長男の嫁に自宅を遺贈する」
などと書かれていたら、原則としてはその遺言に従って遺産分割をやり直さなければならないからです。
ただし、原則的には亡くなった方の意思を尊重するために遺言による相続が優先されることになりますが、相続人全員の同意があれば「遺産分割協議による相続」も可能となっています。
■遺産分割協議の進め方
遺産分割協議は相続人が全員参加し、全員合意が必要です。一人でも参加しなければ協議は無効となってしまいますし、協議の成立は多数決で決めることができません。また、一度全員で合意すれば原則としてやり直しはききません。
遺産分割協議で遺産分割について合意が得られたら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書の書式は決まっていませんが、下記の項目は必ず記載しておきましょう。
<遺産分割協議書に必要な記載事項>
- 被相続人の名前と死亡日
- 相続人が遺産分割内容に合意していること
- 相続財産の具体的な内容(預金の場合は銀行名・支店名・口座番号など)
- 相続人全員の名前・住所と実印の押印
■遺産分割協議でもめる原因
「相続の山場」ともいわれる遺産分割協議をいかにスムーズに進めるかで相続手続きの負担は大きく変わってきます。身内の話し合いなのでそれほど難しくないだろうと思われるかもしれませんが、遺産をめぐって「相続」が「争族」になってしまうことは珍しくありません。
- 前妻との子供や遺言で認知された子がいる
- 遺産の多くが不動産
- 相続人の 1 人が亡くなった親を看護・介護していた
- 一部の相続人が多額の生前贈与を受けている
- もともと相続人同士が不仲・疎遠で協力的でない
- 事業承継で承継しない相続人が不公平を主張 など
揉め事の火種はどんなご家庭にもあります。
例えば、親名義の家に同居して最期まで面倒をみた長男が、当然に自宅を相続してそのまま住み続けられるものと思っていたところ、価値のある遺産が自宅しかなく、介護などに無関心だった次男から
「自宅を売却して均等に遺産分割してほしい」と言われたら?
逆に、早くから自立していた次男の立場からみれば、大学までの学費をすべて出してもらい、同居していることで生活費の一部も親の財産から出してもらっていた長男から
「どんなことがあっても遺産の自宅は絶対に手放さない」と言われたら?
それぞれ自分の主張があるので心情的にお互い納得いく結論をだすのは簡単なことではないでしょう。
相続争いは、決してお金持ちが多額の遺産を巡って発生しているわけではありません。これは家庭裁判所に提起された遺産分割調停の7割が相続財産5,000万円以下であることでも明白です。
また、双方に争う意図がなくても遺産が不動産だけというように「物理的に分けづらい」時は協議が長引く傾向にあります。
■遺産分割協議が不成立のとき
●遺産分割調停
このようなときに利用されるのが遺産分割調停という仕組みです。
遺産分割調停は話し合いによって問題解決を図る場で、調停委員会が申立人と相手方の意見をそれぞれ聞いた上で解決へのアドバイスを行います。
公正・中立的な立場の第三者を挟むことで協議がまとまりやすくなると言われており、遺産分割調停にかかる期間は、平均的に1年程度(2020年司法統計による)となっています。
調停がまとまれば、裁判の判決文と同等の効力がある「調停調書」が作成され、調停調書をもとに遺産を分けます。
●遺産分割調停が不成立なら審判へ
調停が不成立になった場合には、特別な手続きを必要とすることなく自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判は調停のような当事者同士で話し合って解決する手続きではなく、裁判官が遺産分割方法を決定する手続きで、この10年間は毎年約1万件発生しています。(司法統計より)
必ずしも当事者の希望通りの解決内容となるとは限らないデメリットがありますが、相続争いが泥沼化しても「必ず結論がでる」ことがメリットです。
このように、遺言書がないと遺産を分割するまでにいくつものハードルが立ちはだかり、大きな負担をかけることになりかねません。
遺言書は自分の財産をどうするのか、人生最後の「気持ち」を表す文書であると同時に、相続に関するさまざまな手続きについて遺族の負担を軽減する効果も持っています。
【コラム】近年の遺言書でもお伝えしましたが、故人の気持ちを知るためにも、スムーズな相続手続きのためにも、もしものとき悲しみの中で遺言書を探さなくていいように、遺言書について家族でよく話し合っておくことをお勧めします。
(2022年12月4日時点の情報に基づいています)